東北建築賞ギャラリー
第39回東北建築賞(作品賞3作品、特別賞2作品)
作品賞 受賞作品
気仙沼図書館・気仙沼児童センター
施主グループとの協働を重ね、図書館建築のノウハウが存分に発揮された建築といえます。被災地に残された文教の丘にあり、小学校の校庭の延長ともいえる立地であるため、学校帰りの子どもたちの居場所となると同時に、幼児から高齢者まで多世代が集う様々な機能が併設され、それらがしなやかに配置されています。外観シルエットに旧図書館の印象を意識したとするコンセプトは、市民万人に理解されうるか、あるいは重要かどうか、との指摘もありましたが、逆にいえば、建築形態が奇をてらわず、各種面材のテクスチャや色彩計画に力点が置かれていることが、現代的な印象につながっています。市民・地元企業との共創が意図された什器類や、各コーナーにおける光・視環境の工夫など、多世代向けのデザイン、バリアフリー・ユニバーサルデザインが展開されており、当地方の施設建築を一歩前進させています。港町にさわやかな風をもたらした秀作として、東北建築賞作品賞に相応しいと評価されました。
学校法人堀内学園幼保連携型認定こども園菜根こども園
かつては双葉郡富岡町で営まれていましたが、東日本大震災の原発事故により現地再建が叶わず、郡山市に新たに土地をもとめ、計画された認定こども園です。低層住宅が建ち並ぶL型の不整形敷地に対し、緩やかな扇状プランを配して土地の有効利用を図るとともに、出来るだけ建物高さを低く抑え、みごとに近隣になじませています。内部空間は、丸太と地場産の木材を利用した構造フレームによって規則的な扇状のワンルームを構成しており、それ自体には新規性やデザイン性を認めにくいとの指摘もありましたが、放射状架構の軸線が中心へ向かう内側を前面とし、園庭との連続性を高めた深い軒と広いデッキが魅力的です。雨落ち・縦樋などの巧みな処理、起伏をもたせた外構計画など、周辺への配慮と子どもの目線にあわせたヒューマンスケールな印象が暖かみを感じさせます。浜通り地方の労苦から、当施設に結実するまでの道のり、それらを丹念にまとめあげた計画・設計プロセスを含めて、東北建築賞作品賞に相応しいと評価されました。
市立米沢図書館・よねざわ市民ギャラリー「ナセBA」
江戸時代、上杉家が教育に力を注いだ米沢藩の良き伝統を継承しながら、雪国の地方都市のやや寂れた中心街に、新たな生命を吹き込む建築となっています。市人口は10万人に満たないにもかかわらず、本作品が完成するや、たちまち年間の来館者数は30万人を超えるようになったことが、それを証明しています。本作品の一番の魅力は、四方の壁が何層にもわたって書架となり、中心となる吹き抜けの大空間を取り囲んでいる点にあり、東北地方というよりは、まるでヨーロッパの図書館を思わせます。また積層したボリュームの下層は、やや暗さも感じられるものの、市民に開かれたユニバーサルな回廊となっています。こうした空間構成が、周辺環境への調和、積雪荷重の分散といった諸条件に対する試行錯誤から導き出されたことは、設計者の優れた力量はもとより、発注者や利用者である市民の熱意と誇りに基づいていることを実感させます。十分な存在感があり、今後も利用者から愛され、他都市の文化施設にも影響を及ぼすことが期待され、東北建築賞作品賞に相応しいと評価されました。
特別賞 受賞作品
旭陽電気株式会社宮城工場
先端技術産業の集積を進める宮城県大和町のリサーチパークに建つ電子部品工場です。県道264号線上のエリア入口に、電子部品工場らしい未来的なファサードを現しており、小規模ながら高いランドマーク性を有しています。インテリアにおいても、機能面のみを満たした工場建築とは異なり、十分な快適性が感じられ、働く人々の誇りと労働環境の改善に資する空間が確保されています。構法技術的な面でも、半透明アクリル製ファサードよる日射遮蔽効果、橋梁用デッキプレート2枚合わせによる屋根架構におけるダクト機能併設と工期短縮効果、精緻な施工など、随所に工夫がみられました。実質的な心臓部となる生産部門は、非公開部分もあり、一定の空間が確保されるに留まった印象もありましたが、それは産業分野の特性ともいえるもので、むしろ生産・管理・憩い・応接の各部門の合理的配置と巧みなディテールが、端正な工場建築の今後のあり方を示唆しています。以上より、東北建築賞特別賞として相応しい作品と評価されました。