東北建築賞ギャラリー
第34回東北建築賞(作品賞6作品・特別賞2作品)
作品賞 受賞作品
八乙女の⊿(デルタ)住宅
北斜面を造成した振興住宅地に建つ「八乙女のデルタ住宅」は、等高線に沿って通る道路の台地上側に高さ2m以上のコンクリート製擁壁が連続し、台地下側に宅地が一列に並ぶという特異な景観の中にあり、間口に対して奥行きが長く、面積が55坪余りといった建物や庭を計画する上で厳しい敷地条件ですが、建物の平面形を三角形として2つに分割、南側の道路を挟んだ隣地や東西の隣地に対する壁面を、窓のないもの、あるいはプライバシーを確保した窓とすることで、プライバシーに配慮された居室や2階レベルの中庭が確保されています。リビング棟の2階の居間は、北側の高低差や緑地帯を巧みに利用して外部に開かれた最も魅力的な空間となっています。 前面道路に窓のないチャコールグレーの四角い壁のみが面するこの住宅は、住宅地の景観において異質であるものの、無駄を省いたミニマムな建築を検討した結果であり、それでいて豊かな空間を内包しています。仙台市に数多くある新興住宅地の中でも難しい環境条件を見事に活かしており、小規模建築物部門の作品賞に相応しいものと評価します。
地形舞台-中山間地過疎化地域に寄り添う 集落づくりの拠点-
築100年を過ぎ、10年間空き家になって朽ちかけていた農家が天栄村の交流施設として蘇りました。背景や客席となる斜面と庭による「舞台」、改築時の間仕切りを取り払い、構造的な改良を加えて、シンプルで広い平面とした「土間」、住人の記憶を留める居心地のよい「座敷」からなっています。村における空き家の活用モデルとして位置付けられており、現在は湯本地域協議会が村から受託し運営しています。集落の住人を対象とした通常の利用に加え、新規に外部者も利用可能な朝市や会津柳津の神楽(県指定無形民俗文化財)などが催されるなど、温泉やグリーンツーリズムなど山間地の魅力を発信する拠点としての期待が高まっています。新たな用途に対応させた結果、改修部分は多いですが、土間の空間性を復旧し、外観や座敷は過去の記憶を留めるなど、用と美のバランスが取れていると言えます。将来的にも「土間」や「座敷」を中心に交流施設としての利用の可能性は高いと思われます。 「地形舞台」は、山間の過疎地において古民家を後世に伝え、場所の記憶を継承しながらも、新たな活用の可能性を示す好例と言えます。集落や地域に与える影響も大きいでしょう。
くぼみの家
弘前市内の市街地に建つ本住宅は、2階建ての母屋と渡り廊下とでつながる離れの和室とで構成されています。特徴は開口部のくぼんだ形状。そのくぼみを利用して、通気口、断熱サッシを納め、庇の役目も果たしています。逆に内側に突き出た部分には、パネルヒーター、ロールスクリーン、間接照明がコンパクトに納められています。こうした発想は雪国の内にこもった日が長く続く冬を、少しでも暖かく開放的にしたいという地元設計者ならではの気遣いによるものと思われます。施主のご家族は、30代前半のご夫婦と二人の小さいお子さん。「美術館のような家」という要望から、サッシ枠や笠木の見えないシンプルな箱にし、離れと母屋をつなぐ2階テラスやそこから中庭に続く階段の手すりは、小さい子どもへの配慮よりもデザイン性を重視しています。 若い施主の暮らしを楽しみたいという思いと、若い設計者の柔軟な発想と高い技術とのコラボレーションが生んだ秀逸な作品として評価したいと思います。(撮影者:阿野 太一)
紅梅荘改築整備事業
本建物は雪深い山形県北部に立つ特別養護老人ホームですが、緩い屋根勾配を持つ平屋とし、大規模な施設を分節し周辺環境によく溶け込む工夫がなされています。雪の処理を考えると、外部に緑地帯を作ることに躊躇しますが、同種の施設には見られない緑豊かな外部空間を作り上げたことは設計者と施設運営者の連携と信頼を示すものです。外部空間は入居者にとって格好の癒しの空間でしょう。また、県内産の木材活用というコンセプトを徹底し、建築材料のみならずエネルギー源としての活用も図っています。さらに、屋根、床、外壁および開口部の断熱は高度に設計されており、エネルギー消費の面だけでなく、輻射環境等の温熱環境の面でも性能は高いと思われます。 今後、エネルギー消費量や室内環境などについて、具体的に評価し、その結果を公表することで、環境建築に人々の関心が集まることを期待します。
こども園ひがしどおり
本建物は、東通村が策定した「教育環境デザインひがしどおり21」に基いた、幼小中一貫教育の入り口となる施設です。村内に分散していた施設を一つにまとめ、250名の園児を受け入れるため、河川を埋め立て、起伏を活かした敷地造成からはじまり、 0~5歳児まで成長に応じた配棟計画が行われています。ホール棟と子育て支援室、そして幼児棟の屋根が、連なった切妻となり、園全体が景観を構成しています。 各棟は、地場の産材・製材の技術を駆使し、木造、あるいはRC造との混構造で構成されています。登り梁、ヒバの大木、ヒバのブロックアーチなど多彩な構造表現が見られ、園児に形への興味を誘発しています。構造のみならず、年齢に応じた成育に基づいた計画、長い冬を乗り切る温熱対策、幼稚園・保育園に関する法的問題の解決策など、意匠・技術とも高いレベルにあり、こどもたちとスタッフの姿からは、本建物に対する愛着が伝わってきます。 下北の技術と文化を継承し、こどもの健やかな成長を促す環境を形成している秀逸な作品として高く評価されました。
まちの工房 まどか
障害者の福祉施設が周囲の住民と日常的に交流を図るということは、た易く実現できるものではありません。交流を謳いながらも、実際には充分に機能していない事例が少なくないことを見れば、建築設計上の難しさについては、言を待たないところです。 障害福祉サービス事業所として建築されたこの施設は、「交流と学びの館」を標榜している通り、見事に周辺住民との交流が実現され、工房での障害者達の明るい笑顔との融合が実践されている、正に特筆すべき施設と言えましょう。木造平屋建ての比較的小規模な施設に凝縮された内部空間には、個々のコーナーの寸法的な「こぢんまりさ」を超えた感覚的な広がりが感じられ、障害者運営のカフェやベーカリーを訪れる人々に穏やかなひと時を提供しています。それらは設計者の障害者福祉に関する「思い」によって実現されているところが大きく、中央を突き抜けるように配されたアートギャラリー、要所に設けられた光庭、開放的なピロティなどにもその一端が窺えます。作品賞に相応しい秀作の一つと言えましょう。
特別賞 受賞作品
花壇の立体長屋
近年は、フローの時代からストックの時代と言われています。住宅についてもスクラップアンドビルドによる新築だけではなく、中古住宅をリノベートして有効活用していくことが求められてきています。 本作品は、築30年以上が経過したマンションの住戸を、家族のライフスタイルに合わせてリノベーションしたものです。新築とは異なり、さまざまな厳しい制約条件が存在する中で、旧来の最大公約数型の○DKから、この家族らしい「文」を加えたパブリックとプライベートの分離とそれらの交わり・繋がりを有する、オンリーワンの居住空間へと再構成されています。十分な収納の確保をはじめとして住まいやすさには十分に配慮されており、また秀逸な照明の使い方をはじめとしてデザイン的にも非常に優れています。やや惜しむらくは、「長屋」らしい住戸と外部共用空間の再定義の工夫がもう少し見られると、さらに素晴らしい作品となったに違いありません。 とはいうものの、このような先駆的意欲的な作品は、東北建築賞特別賞にふさわしいものと認められます。