東北建築賞ギャラリー
第36回東北建築賞(作品賞5作品)
※第26回東北建築作品発表会時の各作品外観写真です
作品賞 受賞作品
富谷ファミリーメンタルクリニック
人は様々な悩みを抱えている。相談したいと思うときの空間、建築家はそれを実現できるのだろうか。この作品はメンタルクリニックです。クリニックと言えば病院というイメージがつきまといますが、そこに着くとはたして柔らかい木の外装が人を迎え入れてくれます。中に入ると適度に配置された5カ所ある中庭から柔らかい光が注ぎ込む空間が現れます。この中庭は単に光を導入するための空間ではありません。そこには美しく手入れされた樹木が植えられ、そのガラスに隠された中庭空間の陰に椅子が配置されており、そこに癒しを必要とした人々が座ります。受付からはガラス越しに診察を待つ人々が認識できます。管理ではない管理。それがこの作品の真骨頂です。照明も、換気扇も少し隠れた天井の矩形に納められ、自己主張をしません。これが本当の癒しの空間です。院長と婦長にお話をお伺いしました。すべては患者の安心のためと説明を受けました。設計者も決して建築を語りません。患者さんのためにと。これこそがファミリーと名を冠したメンタルクリニックではないでしょうか? 審査会では軒の出がないことによる外装の汚れや外装木壁の寿命に関する問題点も指摘されましたが、この空間のもつ安心感はメンタルクリニックという名に相応しく、東北建築賞とすべき価値ある作品です。
i-HOUSE
東北の住まいでは、常に冬の寒さ対策が問われます。一方で3月から 11月にかけての東北の気候は、非常に快適です。外気を適度に取り入れることにより快適な室内環境が得られますが、特に夏季を中心とした季節では逆に速やかな排熱のための大開口による通気が必要です。 i-HOUSEはこの意味で意欲的な作品です。我が国の田の字型プランに土間のついた伝統的な民家のプランを踏襲し、この土間空間を大開口のついた無断熱とし、春、夏、秋の東北の快適な気候に対応した楽しい空間としています。また冬には土間以外の住まい部分を高断熱高気密化し、この土間空間を外部と住まい部分との緩衝空間としています。土間以外の高断熱高気密化された部分は、基本的に吹き抜けや続き間となっており、各部屋は冬に温度差のない環境を創出しています。 この住宅は設計者が震災復興に向けて、快適でかつ東北らしさや東北の伝統的文化を支える家のプロトタイプとして考えていたもので、このコンセプトをクライアントが気に入り実現したものだそうです。 審査会に於いては、開口部のとり方や、意匠的な外観について更に工夫が期待されるとの意見もありましたが、新たな東北の気候風土や通年を通じての生活スタイルに対応した意欲的な作品であり、東北建築賞に相応しい住宅作品です。
二本松市立 とうわこども園
震災による計画の見直し、放射線による周辺からの配慮など子供の空間を計画する上で困難と感じる条件を丁寧に読み解いた建築です。 地域の祭りをイメージした意匠により、日常的に利用するアプローチ空間をはじめ、賑わいと華やかさにより魅力ある外観に寄与していると考えます。 職員室とエントランスの見通しを確保しつつ、乳幼児をはじめとした園児の空間と活発に活動する園児の空間と明確に分ける事でお互いの存在を意識しながら共存する計画について、年齢以上に身体能力の差を生じる園への配慮と感じられました。特に、放射線の影響から内部に閉じなくてはならない問題を想定すると違う年齢の園児が同一の時間に活動できる点は単に時間的に分ける解決案と異なる視点であると言えます。 また、ハイサイドライトの活用で廊下・保育室に光が注ぐ空間を演出しています。さらに、断熱をはじめ温熱環境の丁寧な計画とともに、太陽光を活用した環境への配慮など高く評価されました。
庄内町ギャラリー温泉 町湯
町並みに、毅然として自己表現を貫いている「庄内町ギャラリー温泉 町湯」は、敷地形状により町屋を考え、そこから導き出された空間構成を模倣しながら、見事に現代の町湯を完成させています。結果、町並みに見事に調和し、異質のデザインに同化させています。外観は、簡潔なデザインとし、質素に見せながらディテールの隅々まで繊細にデザインされており、設計者の力量を感じます。内部空間は、土縁ギャラリーを軸に休憩スペースと入浴スペースが一体化して、心地よい空間が出来上がっています。町屋の坪庭を露天風呂に置き会える遊び心も、見るものに好感を与えます。残念なのは、土縁そのものが、空間の中で浮いてしまっていることで、運営者と設計者の思いの違いが招いた部分と思われます。設備計画も温泉を使った空調、温泉排水を使った便器等へ使われ、環境にも十分配慮されています。 全体として、非常に完成度の高い建築であると思われます。町屋をキーワードとして、すべてを関連付け完結したデザインは、見事な作品と評価します。
塩竈市杉村惇美術館
この美術館は、1950年に建てられた公民館を転用してできたものです。リノベーションという手法は、欧米では有名建築家による多くの例が知られていますが、わが国では既存の建物を活用することが注目されるようになったのはつい最近のことです。 旧公民館は、塩竈市民から長年にわたって大事に使われてきました。とくにかつて図書室であった2階の部屋は、ヴォールトのような木造の曲面天井で覆われていて、単純に見える外観からは想像できない興味深いものです。また、外壁や柱廊には地元産の塩竈石が全体に用いられていることも親しみを感じさせます。そして、1957年に増築された大講堂については、当時の技術ではまれな集成材によるアーチからなる独特の形態であるため、地元の人々にもしっかりと記憶されていたにちがいありません。 このように元の建物が魅力的であったからこそ、転用する方針に傾いたのでしょう。けれども、自由に新築するよりも、元の建物をうまく活かしながら設計するほうがはるかに難しく、建築家の力量が試されるのです。設計者は既存の建物への深い敬意と理解に基づいて、リノベーションを手がけたことにより、さらに価値を高めることに成功しています。 今後も市民の誇るべき施設として地域社会の発展に貢献しながら、継承されていくことが期待できます。 以上の理由により、本作品は東北建築賞にふさわしいものと高く評価されました。
特別賞 受賞作品
特別賞受賞作品はありません。