東北建築賞ギャラリー
第40回東北建築賞(作品賞5作品、特別賞2作品)
作品賞 受賞作品
釜石市民ホール
被災した市民会館の復旧事業として計画されたこの施設は、敷地南側に立地する商業施設や広場とともに、釜石市の新たな復興拠点として位置づけられています。先行整備された釜石情報交流センターと施設をつなぐ大屋根が掛けられた広場は、小ホールとホワイエが同レベルに設定されている、創造活動の一体的な利用を促すとともに、賑わいを創出する拠点。特に可動壁により全面展開する小ホールは、多様な使い方をユーザーが考えるきっかけを促しています。大ホールと連携してレイアウト変更も可能となっており、大スパンを確保した構造計画とともに、多機能を具体化するデザインとなっています。1階レベルにおいてバックヤードも含め比較的裏をつくらないデザインが工夫され、将来的な街に対する考え方も提示されています。運営体制との連携が設計プロセスにおいても試みられており、ハード・ソフト両面における復興まちづくりの公共施設のあり方として、東北建築賞作品賞として評価に値します。
旧長井小学校第一校舎
本作品は、昭和8年に建てられたのち、現在は小学校としての役割を終えて、長井市の「学び」と「交流」の拠点として生まれ変わった木造2階建て校舎のリノベーションです。この校舎は老朽化が進んだのちも、平成元年に大きな補修が施されることで大事に使い続けられて、平成21年には国登録有形文化財となりました。それゆえ、本作品でもかつての教室には、現在の用途にしたがった改修が施されていますが、米松の正目による床張りの廊下や、左右対称形の堂々たる中央階段、関係者からの聞き取り調査に基づいた赤みのスレート外壁などからは、かつての校舎としての記憶が想起されるように配慮されています。とりわけ特筆すべき点は、巨大な木造建築に免震レトロフィット工法を用いたことで、全国的にも類例がないにもかかわらず、東北地方で実現できたことには大いに価値があります。本作品は、地元市民の旧校舎に対する並々ならぬ熱意と誇りを、地元の設計者と施工者がくみ取り実現したものとして、今後も利用者から末永く愛されることが期待され、東北建築賞にふさわしいと評価されました。
九品寺こども園
いわき市における九品寺こども園は、回遊性とポーラスに設けられた中庭により、一体的なつながりと豊かなこども環境が実現されています。「ことば」「からだ」「異文化」をテーマとした教育的なコンセプトに対して、スロープでつながれている回廊、遊戯室の周辺を取り囲む土間、敷地南側の通りと園庭を介する中庭など様々な場を設けることで、広がりのある空間を有しています。全体的に1階の階高を低くすることで、こどもの環境心理に適応させるとともに、上下階のつながりが無理のない計画になっています。また、アルコーブとなっているデンや収納の考え方など、こどもの発育と自由を担保する細やかな環境づくりへも配慮されています。更に周辺敷地の関係においては、敷地南側の通りに対してメッシュや遊具などで活動を見せつつ緩やかに分離する計画となっています。以上より都市における豊かなこどもの環境として東北建築賞作品賞として評価に値します。
須賀川市民交流センター tette
須賀川市に東日本大震災の復興事業として計画された図書館機能や生涯学習機能を併せ持つ複合施設であり、想定よりもはるかに多い入館者数が地域における施設の利用価値を裏付けています。計画プロセスについては、ワークショップなどを積み重ね、運営スタッフとの議論を踏まえ、それらのコラボレーションからハード・ソフト両面からの新たな使い方の形が提示されています。二つの通りを横断する土間を展開する都市的な提案と図書館、公民館、子育て支援施設の枠を超えて、情報と活動が融合する新しい公共空間として様々なスケールへの工夫と密度の高いデザインを具現化しています。また、施設の9つのテーマ語句に関連して、施設全体に図書を配置し、それに対応した什器類も計画するなど、コトを重視してデザインされている点などが高く評価され、東北建築賞作品賞として相応しいと評価されました。
東松島市立宮野森小学校
震災による高台移転地の中核として、旧野蒜小と旧宮戸小の合併により設立されました。造成による切土部に平屋を主体とした木造校舎群を配置し、隣接する「森のがっこう」を借景とする一方、盛土部を校庭としています。前面道路側に体育館、特別教室棟、図書室等を並べ、送迎バスの待合にも用いられる図書室は地域にも開放されます。奥に展開する教室棟は、間隔を置いて主屋に貫入されたいくつものハウスボックス(7.2m×9.0m)が特徴的で、教室部の全面窓やハイサイドライトとともに周囲の景観を取りこみ、明るい中廊下と多様な「場所」を創出しています。これらを包む架構はスギ製材を用い、斜交格子トラス構造で掛け渡した体育館はとくに伸びやかで心地よいです。また特別教室棟は2階建てとしながら体育館とともに地域への開放にも対応しています。庇のある主屋と庇のないボックスの意匠の異質感、全体的に黒を基調としたやや重い外観、校庭の疎遠感、オール電化の設備採用が最適か否か、といった指摘もなされましたが、経験値に裏打ちされた設計の秀逸さは、東北建築賞に値すると評価されました。
特別賞 受賞作品
湯守の旅籠
上山温泉街に、内装を凝らした座敷が連なる旅籠や座敷蔵など、約150年前に建てられた元旅籠を住宅にリノベーションした作品です。個人住宅であり、限られた予算のなかでの最大限の効果をうむ再生の工夫に特徴です。そのひとつは減築という解決策であり、後世の増築部などを大胆に解体し、自家菜園や明るい芝生へ転換しています。また半透明のツインポリカを2階床に挿入し、1階に明るい居室を実現する等、伝統的町家にはない新しい空間表現も実現されています。既存建物の事前調査や片づけなどの多くを施主はもとより、友人知人や大学生などの参画で進められた点も特徴であり、こうして培われた連携にもとづき、座敷蔵等を展示空間として活用するなどの試みも行われています。上山温泉街はこうした古い建物が集積する一方、空き家の進行などの課題も抱えています。本建物の再生設計や保存活用が、こうした地域課題の解決を促進する波及効果も期待され、特別賞としてふさわしいと評価されました。