東北建築賞ギャラリー
第42回東北建築賞(作品賞8作品、特別賞2作品)
作品賞 受賞作品
木町通の家
この住宅は、仙台市中心部にほど近い準防火地域の、軽自動車すら侵入できない狭隘道路に沿って8軒の住宅が密集する、武家屋敷跡の割譲敷地にあります。狭隘道路とはいうものの、そこは入口から住宅1軒分通り抜けると幅4mほどの袋小路であり、親密さが感じられます。この雰囲気を敷地内に引き込む半屋外の「路地」は、地域と連続する庭や玄関である以上の役割を果たしています。すなわちリビングの続き間であり、在宅ワークの書斎であり、別の部屋にいる家族の気配を互いに感じる交差点であり、シアターであり、耐火外壁の一部であり、採光・換気の緩衝空間でもあります。特に、防火シャッターを「路地」の入口に設けたことで、法規上、「路地」に面する壁や開口部サッシは耐火性が不要になり、さらに隣家に向いた外周壁面に開口部をほとんど設けなかったことから、ローコスト化と高断熱化(UA値0.43W/m2 K)を実現しています。このように、地域の特徴を生かした新たな都市型住宅の典型を示したことにより、東北建築賞作品賞に値すると評価されました。
噺館(はなしごや)
噺家を呼んで寄席を開き、みんなで落語を楽しむための小規模スペースです。しっかりとした高座が備えられた本格的な寄席の場が整えられており、客席は土間で落語を聞きに来た人たちは気兼ねなく寄席の場にアクセスすることができます。また、遠方から来る噺家をもてなし、寛いでもらうための宿泊スペースを完備しており、全面窓となっている東側からは蔵王連峰が一望できるなど、敷地が持つロケーションの魅力を最大限に引き出している計画となっています。寄席の場と野外との連結もスムーズで十分に整えられており、寄席だけではなく様々な小規模イベントに対応できそうな拡張性と開放性を感じます。本作品は一言で表現すれば、「噺家を呼んで寄席を開く小規模スペース」ということになりますが、その一言には収まらない「楽しさ」と「遊び心」に満ちた空間です。仲間内で楽しむことを出発点に計画されたと思われる建物が、開放的な楽しさや遊び心でもって人々を惹きつけ、結果として良質な「地域のコミュニティ形成」を実現する、まさに代表的な例と言えるでしょう。このような空間を個人で管理していくことは大変な面も多いと感じますが、地域の中心的施設として末永くあり続けることを期待します。
あさひ会計 セミナー棟
山形市の玄関口にあたる、山形駅から山形県庁に向かう大通りに面した会計事務所のセミナー棟として建築されたものです。鉄骨造を主体としながら、印象的なファサードを構成するスギ無垢材による水平ルーバーは耐風などの構造要素としても活かされ、屋根架構には天井仕上げ材を兼ねるLVL材を用いるなど、ふんだんに木材を利用して柔らかい印象を与えている建物となっています。2階のセミナールームは、連続する切妻屋根とハイサイドライトを活かした魅力的な大空間になっています。1階のオフィス・ラウンジも、考え抜かれた使い勝手とセキュリティ確保の要求の双方を、高い水準で実現しています。会計事務所という性格上、広く一般に開放するといった使い方には馴染みませんが、位置する大通りの中で外との繋がり拒絶することなく、既存の建屋とも融合して地域の景観に寄与することに成功しています。これらの点を踏まえて、東北建築賞に値すると評価されました。
金蛇水神社 SandoTerrace
Sando Terraceは、岩沼市にある金蛇水神社の外苑に新築された木造建築で、JIA主催設計競技(2017年度)で最優秀賞を受賞し設計者が選出されました。建物は90度の円弧を描いた屋根付きの参道で、両脇に飲食店と地元特産品のショップ等が配置されています。参拝者は先が見通せないトンネルを通ることで、その先に見えてくる本殿や広場がより明るく感じる効果が生じ、世と俗の切替装置として見事に機能しています。屋根形状は背後の山並みや本殿の屋並に調和するよう高さを抑えるため双頭の寄棟としています。また、ハード面のデザインの工夫だけでなく、蛇をモチーフにしたロゴや商品やメニューの開発、地元特産品のパッケージも地元デザイナーが手掛けるなど、ソフト面のデザインの充実がハードの質をより高めているところも評価のポイントといえます。そのため、参拝客・観光客が大幅に増え、ファミリー層など若い世代も多く訪れており、地域のランドマークとして岩沼のまちづくりに大きく貢献する施設となっています。
釜石市立唐丹小学校・釜石市立唐丹中学校・釜石市唐丹児童館
被災した小学校と児童館、半壊した中学校の全てを中学校敷地に再建した学校です。唐丹地区には小さな漁村集落が点在していますが、敷地は地区の中心的な小白浜集落に位置しており海を見渡せる最上段の高台の傾斜地で、校舎は以前から存在していたかのように集落と一体となった風景を作り出しています。傾斜地に土木設計と建築設計の細やかなすり合わせを進めながら児童館、小学校、中学校と地域コミュニティ機能など5棟が丁寧に配置されています。5段の傾斜地の各高低差を利用した教室棟は室内空間が隅々まで明るく各教室の前庭と各棟間の屋外空間は有機的に連続され室内からの豊かな眺望、採光と通風の取り入れ口として有効に機能しています。庭や屋外通路は地域の高台避難経路として利用、地域のコミュニティの為の相談コーナーや備蓄倉庫、歴史資料館、集会室なども併設され防災拠点として集落の核となっています。内部空間構成と外部空間構成の細やかな計画と配慮に涙ぐましい努力が感じられます。東北建築作品賞として相応しいと評価されます。
ロカド香久山
ロカド香久山は、郡山市郊外の住宅地に建つ2階建14戸の民間賃貸住宅で、入居者同士のコミュニケーションを意識した中庭を囲むロの字型の住棟配置が特徴です。また近隣とのつながりを意識して、角を開いたエントランス広場を設けており、その形状が「ロカド」の名の由来となっています。さらに全戸が中庭を介するアプローチをとるコモンアクセスが導入され、入居者同士の偶発的な顔合わせを促しています。集合住宅の計画においては、いわゆる南面並行配置が一般的で、日照・通風がネックとなるロの字型は、日本においては公的な集合住宅計画で実験的に行われたケースはありますが、民間でかつ地方都市ではかなりのレアケースと言えます。プライバシー偏重の現代にあっては、理念として受け入れられても、オーナーを説得して実現するのは至難の技です。一方、同住宅のオーナーは、企画設計者の大島芳彦氏のまちづくりの思想に共鳴し、近隣で所有する集合住宅のリノベーションも実施するなど、地域まちづくりにも設計者と協働で貢献しています。
陸前高田市気仙小学校
震災により高台に統合移転されたこの小学校は、校舎の連なりが町並みをつくり、地域へと広がるコンセプトのもと、横断する地域の散歩道や分棟化させた木造の校舎群、広場のような中庭等配置計画において具現化されています。普通教室棟は2学年を1ユニットで構成、教室は8m角の空間に6m角の空間を内包した形態とし、教室と連続する凸型のオープンスペースは親密なスケールと開放感を両立させた小規模校ならではの空間となっています。大屋根の下で構成された特別教室棟は、多目的スペースが町のストリートとなり、特別教室が家のように配置され、八角形の本棚など様々な居場所がある図書室、発表会など目的に応じて多目的スペースと一体化する音楽教室など段階に地域開放できる工夫もされています。鉄骨リングと木の二重架構で無柱空間を実現した風の塔は、地域の伝統文化と構法を継承する高台のシンボル的存在となっています。小規模校の今後のあり方として、東北建築賞に相応しいと評価されました。
弘前れんが倉庫美術館
明治・大正期に酒造工場として建てられ、戦後は日本で初めて大々的にシードルが製造されるなど 100年にも及び、近代産業遺産として青森県弘前市の風景を形作ってきた吉野町煉瓦倉庫に対して、耐震も含めた改修を行い、市民の記憶や歴史を継承する美術館として再生させたプロジェクトです。「記憶の継承」のコンセプトに基づき、既存建物の煉瓦壁、木造及び鉄骨トラス屋根の部材を最大限に活用しつつ、必要な部材を加えて巧みな耐震補強を施すことで、建物の記憶を継承しながら、美術館という新たな施設となっています。建物の魅力を生かして国内外の先進的なアートを紹介するとともに、弘前そして東北地域の歴史、文化と向き合う同時代の作品の収集・展示することで、 過去から現在、そして未来へと繋がる新たな創造性を喚起する文化創造の拠点となっています。スタジオや市民ギャラリーも設けており、市民の交流の場としても活用されています。
特別賞 受賞作品
副都心下の受光する住器
この住宅は、仙台市副都心部として再開発と人口増加が著しい住宅地の「旗竿敷地」にあります。現時点では同規模の住宅や畑に囲まれていますが、容積率200%の第3種高度地区であり、将来は採光・プライバシーの心配があったことから、壁面の開口部は最低限に抑え、独創的な断面を有したトップライトを設けています。まず、トップライト直下には熱線吸収塗料を施した曲面ミラーがあり、「熱を濾し取られた太陽光」のみが室内に降り注ぎます。そして有機的な形状の屋根裏天井は、光を乱反射し、まるで伝統的な古民家のように天井のない居住空間全体に、広く行き渡らせます。一方、棟部に溜まった熱気は、夏は開閉式トップライトから自然排熱され、冬はダクトファンで床下に誘導して上下温度差を解消しています。現地視察において、室内から見上げた時にトップライト越しにいつまでも眺めていられる空の色合いが印象的でした。このように、太陽光利用に対する挑戦的な取り組みと、実測データによる効果検証が、東北建築賞特別賞に値すると評価されました。