東北建築賞ギャラリー
第44回東北建築賞(作品賞3作品、特別賞2作品)
作品賞 受賞作品
盛岡の家
地方都市に立地する築80年を超える老朽化した戸建て住宅を次世代に住み継ぐためのリノベーションである。主なアプローチは、外皮減築、断熱補強、耐震補強の3つ。減築は室内への日射の確保するともに、軒下空間に中間領域を創出することで外部空間とのながりを豊かにしている。外壁の高断熱化は、吹き抜け句を含む開放的な室内の平面計画を実現している。床レベルを450㎜下げることで、外部への眺望の確保と室内空間に広がりをもたらしている。耐震補強もジャッキアップをせずに、基礎の部分補強を行う構法を採用し束基礎から布基礎に変更している。また、サッシなどの部材についても腐食した部材を中心に最小限の交換にとどめている。それぞれの手法に共通しているのは、現状の建物の価値を丁寧に読み取りながら、次なるリノベーションを視野に入れた計画とするために、部材、接合方法、設備などを汎用性の高い方法を組み合わせることで、住まいとしての持続性を創り出している。今後の住宅の持続性を考える上での実践的な改修方法として、優れた批評性を提示している。以上により東北建築作品賞に推薦いたします。
SYNEGIC office
木造用ビスメーカーのシネジックの新社屋計画です。配置計画、外構計画、平面計画、構造計画と様々な工夫をこらした作品といえます。配置・外構計画では、建物を敷地の真中に配置し街から近くに感じられる工夫や、在来種のタネを拾い育て植樹するなど、街の方々に親近感が得られるよう、様々な工夫がなされています。又、平面計画では、十字の事務エリアと四隅の実験室、ラウンジなどが吹抜を介し事務室とつながり、活発な対話や連帯感が生まれる計画となっています。構造計画では、入手しやすい105幅の住宅用集成材を用いた平面トラスを傾斜しながら並べ、トラスを三角形のCLTパネルで緊結する形で18mの大スパンの無柱空間をつくりあげています。又、接合部をCLTで処理し、ビスのみの留め付けの工夫や、架構が手に触れられる距離からだんだん高くなる工夫など、様々な検討がなされた意匠性の高い、インパクトのある架構といえます。架構に目が行きがちな建物ですが、その土地の風土を生かした外構計画、刺激し合う平面計画など、様々な配慮がされた優れた建築だと思います。以上により東北建築作品賞にふさわしいと高く評価されました。
みなみあいづ森と木の情報・活動ステーション きとね
「みなみあいづ森と木の情報・活動ステーション きとね」は、林業を核とした地域振興に取り組んできた南会津町が整備した、林産業に関する事業者の連携、情報発信、教育・研修、展示・販売などの機能をもつ交流拠点施設です。冬の2mの積雪に耐える屋根を地域でできるシステムで造るという考えのもと、機能的空間の入った縦ログ構法の箱と、その上に載せられる南北に貫く10本の重ね梁により、広々とした多目的な空間が作られています。また、木のおもちゃなどを有する木育スペースや誰でも使える大小様々な木製テーブルなどは、森林・林業・木材を身近なものとして実感でき、幅広い世代が集う憩いの場を提供しています。これまでの木造大型建築にとらわれない方法により、町有材の伐採から施工までほぼ全ての工程を町内で完結さたこの建物は、地産地消と脱炭素化・カーボンニュートラルに貢献し、町産材の価値を高める建築となっています。以上により、東北建築賞作品賞にふさわしいと高く評価されました。
特別賞 受賞作品
ベコハウス
災害復興支援を行う団体の事務所である本作品は、2つの建築物の移築を含む3つの建築物の複合体です。かつて東北建築賞作品賞を受賞した「都市計画の家Ⅱ」は三角形の平面を有し、その1面が開放的な実験住宅でしたが、オーナーで設計者の芳賀沼整氏が逝去したことに伴い、移転を余儀なくされました。芳賀沼氏の代名詞にもなった縦ログ構法の処女作である「KAMAISHIの箱」は、東日本大震災に際して建設された仮設集会所でしたが、こちらも同時期に移設の必要が生じました。前者は移築後にも1階の開放的な表情を生み出し、再組立てを想定していた後者は2階の機能的な執務空間に位置付けられました。後者を支持する構造が新たに加わりながらも、両者の構造規範や表情が打ち消されず、むしろ空間が見事に解け合っていることが巧妙です。離れの「Capsule Box」にも縦ログ構法が採用されています。芳賀沼氏の精力的な復興支援活動に共鳴した人々によって本作品が設計されたことは、東北地方における東日本大震災以降の建築文化の発展を強く感じます。