東北建築賞ギャラリー
第38回東北建築賞(作品賞4作品、特別賞1作品)
作品賞 受賞作品
余白の杜
古くからの町割りを残した地方都市の市街地の一角における住宅です。住商が混在した周辺からの喧騒を断ち切るため、道路や隣地に対しては住戸の壁を回していますが、西側では縦格子越しに中庭の木々の色が映え、住宅内部の豊かさを予感させてくれます。特に評価されたのは、エントランス、玄関の間、中の間、奥の間へと、空間が雁行しながら奥行きを持っている点です。各居室間ではほどよく視線が通りながらも、それぞれの領域としては独立できており、まさに設計者の狙い通りの空間構成ができていました。各居室の使われ方に応じたスケール感の設定が適切であったことにも好感が持てました。2畳の間や畳の間は、軒の出などにおける設計上の努力もあった空間です。ひとたび座ると、時間が経つのを忘れさせてくれるような空間でしたが、目下の中庭との関係や、正対せずに構えている向かい側の居室との関係性で成立していました。このように本作品は、まとまりのある構成を細緻な設計によって実現している住宅であり、受賞にふさわしいと判断しました。
八戸市立西白山台小学校
この学校は、校舎へのアプローチが印象的で、木々が植樹されている北西角のエントランスゲートを通り、体育館棟、多目的ホール棟、職員室棟の曲線で構成された外壁の建築群の間を自然にすり抜けるように校庭へと進み、教室棟の3つの昇降口へと辿り着きます。校舎は、大きな敷地の中に体育館棟、多目的ホール棟、特別教室棟や学年別教室棟など分棟型スタイルとり、その間に芝生張りの中庭があります。その構成は明快で機能的、さらに通風・採光はもちろん視認性や美観も良好です。更に子供達の積極的な活動を誘発する仕掛けが見え隠れします。また、屋根集熱システム、ペアガラスの建具、すべての棟が廊下により接続されなど、寒冷地の学校としての配慮もなされています。構造は、体育館を除き、地元産の木を使った木構造で、その架構のデザイン・デイテールは美しく、また、家具、什器なども構造材と同じ樹種で造られていることなど、全体として、色彩の統一感、木質感、施工性の高さ等、質の高い木質の学校空間を創出しています。以上のことから、この学校は東北建築賞に相応しい作品として結論付けられます。
宮古市崎山貝塚縄文の森公園複合施設
本作品は、縄文文化を現代に生き生きと伝える建築であり、地域施設としても機能する複合建築です。彫りが深く無駄のない抑制のきいた外観は、周辺環境に落ち着きと風格を与え、地域の誇りを醸成するデザインだといえます。東日本大震災の影響から多大な調整や変更に見舞われたにもかかわらず、最善の策を提示しつづけ施設全体をまとめあげた設計者の力量には相当の高い次元を感じさせます。館内の展示についても専門家との高度なコラボレーションが実現され、来館者の学びをより深化させる工夫を随所に凝らしています。縄文の時間を巡り学ぶ動線が、めりはりの利いた空間で導かれる計画となっており、展示物や展示内容と建築空間とが分かちがたく融合し互いに功を奏しています。本作品の管理者からは設計者に対する高い信頼と、培われ共有された建築をつくることの喜びが深く感じられ、施設全体に心地よい調和をもたらしていることを知ることができます。以上から、本作品は東北建築作品賞としてふさわしい建築だと評価いたします。
二本松市城山市民プール
二本松城址に隣接する浅い谷地に沿うように建設された当施設は、鉄骨造の外殻に木造小屋組屋根の大空間である屋内水泳施設です。高低差のある敷地の最上部に駐車場が配され、そのレベル正面にあたる2階部エントランスから館内に入ると、ギャラリースペースのガラス越しにプール空間の樹形の鉄骨柱が印象的に目に留まります。1階に配されたプールへは、ギャラリーから螺旋階段を降りてアプローチしますが、視点の移動がプール空間のダイナミズムをより一層に強調します。木造小屋組の屋根に穿かれたスリット状のトップライトも印象的です。寒冷地の屋内プールでは結露問題が一般的に発生しがちですが、本施設においては、プール空間の空気流動計画と積極的な空調によりそれを防いでいます。以上のように本施設は、敷地を活かした空間構成とともに、木架構の可能性を拓き、水泳施設そして地域固有の建築屋内環境上の課題を解決した完成度の高い建築であると評価され、東北建築賞作品賞に相応しいと審査されました。
特別賞 受賞作品
くりでんミュージアム
旧若柳駅舎とともに、『栗原地域と歩む鉄道文化拠点』をコンセプトとする「くりはら田園鉄道公園」に立地する「くりでんミュージアム」は、同鉄道廃線(2007)後の資産保全活用にむけた栗原市の検討やそれを支える市民活動を経て、2017年にオープンしました。町村合併(2005)後の栗原市都市計画マスタープラン(2008)や、岩手・宮城内陸地震(2008)・東日本大震災(2011)後の文化財ドクター派遣事業を踏まえた公園基本計画(2013)では、若柳中心地域の観光拠点、かつ市有形文化財指定の復興モニュメントと位置づけられています。百年近い鉄道経営の関連資料の保存、機関車・工作機械類の動態保存、建設時図面の調査を踏まえた建物修繕・再生など、一連の「被災から保存再生・活用」を目指したまちづくりの成果といえます。新築資料館の設計や展示方法、都市計画道路による公園敷地の分断など、更なる検討改善の余地はあるものの、限られた市予算の中での出来うる限りの試みです。そこで本審査会は、「くりでんミュージアム」を東北建築賞特別賞に相応しい作品と考えました。