東北建築賞ギャラリー
第35回東北建築賞(作品賞5作品・特別賞2作品)
※第25回東北建築作品発表会時の各作品外観写真です。
作品賞 受賞作品
石巻市子どもセンター
石巻の子ども達にとって、仮設住宅の集会所は自分たちの居場所ではなく、大人達の居場所との認識です。 彼らが石巻のまちづくりに最も必要だと思ったのが「子どもの居場所」 。 子ども達がイメージする「ゆったり広場」という抽象的な言葉から、建築家と子ども達はワークショップを繰り返しながら建築空間のイメージを探り当てました。建築家は子ども達に「良い空間」を教えながら、建築家は子ども達の豊かなイメージに学びながら「ネスト(動物の巣)」のような空間、多様な空間が3次元に繋がって見え隠れしています。子ども達は複雑な空間を楽しみながら使いこなしています。そしてこの施設は、子ども達自身が積極的に施設運営に参画しています。子ども達が自分たちで地域に必要な建築をデザインしていく、そしてできた建築を愛着を持って育てて行く。このプロジェクトは単に優れた建築デザインを生み出しただけではなく、優れた建築デザインが分かる発注者、そしてそれを運営していく主体を育てるプロジェクトとして、東北建築賞に相応しいとの高い評価が得られました。
山形BPOガーデン
インターチェンジに近く、施設は白いリボン状のシルエットが高速道路を走る者に優しく遠望できる位置にある。 施設は、コールセンター機能で、スタッフを500人も有する地元の大きな企業である。 大半が女性であり、女性の社会進出を象徴する職場環境といえる。設計コンセプトを明確に表現した計画となっている。施設機能から、女流建築家を参加条件としたコンペであったという。 明るさと優しさに溢れたオフィス環境であり、外部から内部への色彩の統一性は、立体的なスロープ状となっているリボン状の回遊空間全体に及び、スリット状の外壁の外光と、適度に配置されたトップライトの光は、空間全体を優しさで包み込み、軽快感を与えている。女性の配慮に、大きなパウダーコーナーや春夏秋冬ゾーンに分けた色彩ゾーンも華やかさを引き出すための努力が伺えた。24時間体制と出張のための福利厚生施設も完備されており、働く社員への企業側のモデルケースとなりえると感じた。さらに、地域貢献として広い敷地内での地域住民とのふれあいイベントに解放され市民コミュニテイー作りに取り組んでいる姿も評価したい。
認定こども園ぼだい樹西こども園西保育所
本施設は北西風に対応した配置となっており、東側に芝生広場を有し、南側は川に面している。土間玄関から根付き杉丸太16本の柱郡で囲まれた遊戯ホールを中心として、芝生広場を挟んで両ウイングに保育室を配置した平面構成となっている。特に遊戯ホールは、子供たちを大きな傘の元に愛情一杯に育てたいという意図から、陣笠の骨が16本あることからイメージされている。 設計のコンセプトは、「生きる力」を育てることであり、多様な生活体験の場の再構築にある。各室を探検魂の育成を目的として、様々な仕掛けを提供し、あたかも森の中にいるかのような育ちの空間のある楽しい保育園を創出している点は評価に値するものである。 また、施設内部は地場産材をふんだんに活用し、薪ストーブのある多目的ランチルームをはじめ、木の香り一杯の当保育園は、この施設で育つ園児に自然な環境空間のあり方と、建築がもたらす情操教育のありように一石を投じているといえる。更に雨水利用、地中熱利用、太陽光発電など省エネルギーを多様に取り入れており、小規模施設でありながら積極的に環境に配慮している点も高く評価された。
庄内町新産業創造館クラッセ
昭和9年に建築された近代において国内最大級の米倉庫を、その姿を大切にしつつ、町の産業振興、雇用創出、中心市街地の活性化を基本理念として再生した施設である。米倉庫は、近代以降、日本有数の米所である庄内町の景観を形成してきた。最大の魅力である大屋根の白瓦は新しいものに葺き替えられ、防火構造とするため防火壁の追加や外壁の改良が行われたが、その姿を留めている。内部は用途変更に伴う間仕切りや空調設備、内装制限による仕上げ材の追加、構造補強がなされたが、建設当時の松杭やコンクリート基礎、軸組や壁体は保存されている。また、屋根棟部において外観上のアクセントになっている既存の換気塔や天窓を改修して活かしている。新しい用途の利用状況を見ると、農業が盛んな町の食材を使ったレストラン、下屋部分に設けられた地元特産品を販売するバザールは観光客や周辺住民などに、加工特産品開発のための貸工房及び共同利用加工場は地元団体によく利用されている。貸オフィスはIT企業が入居済で、地域の雇用創出につながっている。このようにクラッセは、全国的にも珍しく貴重な歴史的建築の保存にとどまっていない。改修部分が多いがその活用には地方の町の未来が見据えられている。他の地域に与える影響も少なくないと思われる。
会津坂下町立坂下東幼稚園
会津坂下町立坂下東幼稚園は、幼小連携構想により、隣接する小学校と連携して、同敷地内に新設された幼稚園です。園舎は卓越風向に配慮し、冬の風雪から園庭を守る様にV字に配置され、園庭に雪を落とさない片流れ屋根や園舎と園庭を繋ぐガラス屋根の雁木空間を備えて、園児室は園庭に開かれており、雪を退けるのみではなく楽しむための配慮が感じられます。この建物に用いられた木材は全て町内の学校林から得ており、屋内に一列に並ぶ樹木のような丸太の柱や無塗装の内装に園児が接することで、 教育的な効果も大いに予感されます。木材と加工の徹底した地産地消や、暖房を目的として採用された地中熱ヒートポンプ、床下空調、開口部の断熱への配慮等、環境面の取組みも注目に値します。これらの事が審査委員会において高く評価されました。 今後、エネルギー消費や屋内環境の評価を行うことで、環境面の取組みにおいても評価されることを期待します。
特別賞 受賞作品
水平線に沈む屋根
この住宅のユニークなところは、北側の前面道路から見た外観である。砂利敷の前庭(駐車場)、生垣の向こうに緩勾配の金属板葺きの屋根のみが見える。建築の背景は、敷地の南側隣地に広がる保安林である。敷地は仙台市太白区の住宅地の端にあり、自然豊かな林に面するが、傾斜地である。このような決して良いとは言えない立地条件を活かして、開放的かつプライバシーに配慮された住宅になっている。斜面の下に玄関を設け、その上階(1階)に主な部屋が配置されている。1階は各室が東西方向へ一列に配置され、南面が全て窓になっており、林へ向かって開かれている。東側半分を占めるLDKは、北、東、南の三方が外に面し、窓で囲まれた最も居心地のよい空間である。1階の床が道路・前庭レベルより低く設けられており、前述の生垣もあるため、外からの視線が気にならない。プライバシーに配慮されつつ、通風が確保されている。南側隣地の落葉林は、夏の日射を遮り、冬の日射を取り入れることであろう。これらの工夫によって、都市の住宅地において別荘のような住宅が実現されている。特殊な立地や外観の住宅建築であるが、自然と建築のありかたを問う普遍性もうかがえる。野鳥の窓ガラスへの衝突に配慮がほしい。