東北建築賞ギャラリー
第43回東北建築賞(作品賞4作品、特別賞1作品)
作品賞 受賞作品
南三陸ワイナリー
「南三陸ワイナリー」は、東日本大震災で甚大な被害を受けた南三陸町に再建された水産加工場のプレハブ建築を再利用したリノベーション施設で2020年10月に竣工しました。当施設は、ワインの醸造・熟成スペース、ワインや海の幸を味わえるショップからなり、海の見える展望テラスも増築していて、少ない予算の中でプレハブのリユース材を積極的に使用し、カスタマイズしやすい仕掛けを施しています。またぶどう畑に使用していた木ぐいの再利用やボランティアらによるD I Yによって施工費削減を図るとともに、多くの人を巻き込むプロジェクトとなっています。震災後、当たり前のように存在していたプレハブ建築も、今では多くの被災地で見られなくなっており、復興過程の記憶を継承するという点でも「南三陸ワイナリー」は意義深い存在と言えます。さらに年毎に変わるワインラベルや商品パッケージのデザインなど、事業全体のブランディングにも設計者が携わっており、地域貢献や地方創生への寄与が求められる、これからの建築家像を体現している点でも大いに評価できます。
八戸市美術館
八戸市中心市街地に位置し商店街、市役所、銀行などに隣接する美術館は、様々な形の植え込みやベンチなどが散りばめられている広場を中心に,市民が気軽にアプローチできる施設となっています。トラス構造による明るく解放的な大空間「ジャイアントルーム」がエントランスホールであり、休憩、展示、製作のスペースとして市民が自由に参加しやすい空間となっています。2室に分節できるギャラリー、高天井のスタジオ、ワークショップ、映像展示のブラックキューブ、大展示のホワイトキューブ、コレクションラボ、など「個室群」はどの部屋も「ジャイアントルーム」に面していて、様々な組み合わせにより多様な使い方や新しい試みを可能にしています。収納展示主体の美術館から地域の風土や文化に根ざしたプログラムを主体とした美術館であり、アートの枠を超えた市民の多様な活動の可能性を感じます。コミュニティ施設としての美術館のあり方として、東北建築作品賞に相応しいと評価されました。
シェルターインクルーシブプレイス コパル(山形市南部児童遊戯施設)
この作品は、様々な文化や思考、障害も含めて多様な背景を持つ子供たちのために山形市が建設した教育・文化・体育の拠点として建設された施設です。設計者は、誰もが使える“ユニバーサル”デザインではなく、“インクルーシブ”という概念を提唱し、多様な人たちがその個性や特性を有しながら、集まれる場所を設計しました。その取り組みでは、企画段階から、設置者、運営者、施工者、利用者を巻き込んで議論を重ね、計画・設計を進めたプロセスは特筆に値します。体育館から遊技場までを緩やかにつなぐ空間と、蔵王連峰に溶け込む屋根の形状、それを実現する鉄骨立体トラスと木造アーチの構造計画などが、子供だけでなく大人も引き付ける魅力的な建築として実現しています。地域の木材を利用した遊具・ベンチ、手すり、照明器具など細やかな配慮・工夫も丁寧に施されています。効率性・採算性が重視され、画一的な建築になりがちなPFI案件でありながら、東北の山形にふさわしい地域性・個性を有しながら、全国の“インクルーシブ”建築の代表モデルとなりうる作品です。以上より、東北建築賞作品賞にふさわしいと高くと評価されました。
yodge
yodgeは、福島県玉川村の四辻地区にある70年以上前に建てられた旧分校を村全体の活性化のために、泊まり・集え・子どもたちが遊べる場としてリノベーションした観光交流施設です。校庭からの外観の保全や既存材の再利用、或いは丁寧なランドスケープづくり等、地域の風景と地域活動を継承していこうとする試みが感じられます。内部空間においては、片側廊下型から中廊下型に既設の界壁を教室側に移設し、廊下だった箇所には、水廻り等を違和感なく納めており、誰もが思い浮かべる学校らしい片側廊下型のデザインの継承がなされています。かつての教室は宿泊室として防火性能を室内側で確保する等、廊下側のデザインを損ねない工夫がなされています。また、既存の天井高さにルーバー天井を設けたカフェレストランや四辻ギャラリーにおいても、図面表現で解体箇所を示す点線のような既存空間の面影を感じさせるリノベーションを実現させています。発注者や地域の人々においても、風景と地域を継承していこうとする強い意志が感じられる作品です。
特別賞 受賞作品
二世帯で住む、巨木の住処
歴史ある門前町の中を走る旧街道沿いの、密集した住宅地にこの住宅はあります。住宅地の狭い路地を入り込んだ先に見えてくる外観は、2階部分が張り出したシンプルだけれども特徴的なものとなっていますが、外観からは巨木の印象はありません。しかし内部に入るとその印象は一変し、中央の木製タイルで装飾されたエレベータシャフトを中心としてらせん状に連続的に配置された空間の構成が、まるで巨木のまわりをぐるりと回りながら上っていくような感覚を与えてくれます。また、各空間の光は光井戸とハイサイドライトによってうまく取り入れられており、住宅の密集地で開口部が取りにくいにもかかわらず閉塞感を殆ど感じません。巨木を模したエレベータでも行ける屋上階は計算され尽くした庭園となっており、密集する隣接建物から解放された景観を望むことができます。密集住宅地にある、決して広くはない敷地に隠れていた魅力を最大限まで引き出し、広がりのある空間を実現しているこの作品は、狭小地における住宅の可能性を示すものと言えるでしょう。