東北建築賞ギャラリー
第45回東北建築賞(作品賞4作品、特別賞2作品)
作品賞 受賞作品

会津柳津駅舎情報発信交流施設
本駅舎は、JR東日本から町が購入したことを契機に、駅舎機能はもちろん、倉庫となっていた駅舎の半分を地域の活動拠点となるカフェやワークショップスペースなどの交流スペースに改修した駅舎です。赤べこは会津柳津町が発祥の地とされており、ここでは赤べこの製作体験もできます。建物ができるまでには多くのワークショップを地域住民と行ったことで住民との協力体制が形成され、本施設の運営に生かされています。外装は、新築当時の写真を調査したり、住民に対して聞き取り調査をするなどして、当時の記憶にあった駅を再現しています。JR東日本との所有区分の分筆ラインがあることで、建物への制約もありながら新しい庇やベンチスペースなど、制約を感じさせない豊かなホームスペースを実現しています。この駅舎ができたことで、只見駅からこの駅まで電車を利用して紅葉などを見物した観光客を、観光バスにて回収する拠点にもなり、かならず観光客が立ち寄る駅となっていることで賑わいが生まれ、可能性を感じる魅力を持った駅舎づくりが評価されました。以上のような点から、東北建築賞作品賞に推薦されました。

NIPPONIA白鷹 源内邸
NIPPONIA白鷹源内邸は、既存の歴史的建造物をホテルにリノベーションした意欲作です。旧所有者の奥山家は、宝暦年間の初代高橋源内からはじまる豪農で、功績碑が建立されるほど地域の発展に尽力しました。源内邸は、約8000平米の広大な敷地内に明治中期から大正初期頃に建てられた複数の建物で構成され、庭木や竹林、池や石畳など、当時の豪農の屋敷構えを遺しています。主屋、書斎、土蔵4棟の歴史的建造物を含む計7棟を改修し、8つの客室とダイニングに用途を変更しています。改修は、便所・風呂等の水回りや消火設備等の新設、内壁の美装化など極めて限定的で、屋根や外壁は補修とするなど、建物本来の魅力を最大限に活かすよう工夫しています。外構には、白鷹町で明治期以降流通した凝灰岩の高畠石を多用して農村景観を積極的に整備し、客室に開口部を設けて竹林を望む等、周囲の景観を空間に取り込む演出も際立ちます。改修時の地域住民との連携や協働は、源内の地域貢献とも合致し、地域史の継承にも寄与しています。歴史的建造物と地域固有の農村景観を踏まえた独自の滞在空間の創造が高く評価され、東北建築賞作品賞に推薦されました。

さくらんぼこどもキャンパス CLAAPIN SAGAE
山形県寒河江市に位置するさくらんぼこどもキャンパスは、開館以来市内外から多くの来館者が訪れ、日々こどもの賑わいに溢れた施設となっています。一見するとやや閉鎖的な印象を与える部分もありますが、遊具となるツリーを中心に広がる大きなヴォリュームと、中心に向かってすり鉢状となる起伏は、明るく開放的で施設全体がこどもが遊べる場として機能しています。また中心に向かって傾斜するヴォイドは、こどもの遊具であるとともに、それを見守る保護者から俯瞰できる空間となっており、適切なスケール感が設定されています。そして、特異な平面形状により生み出されるニッチな空間は、工作やワークショップスペースとなるなど、遊びが発展する場としてデザインされています。また周辺環境の起伏と連続するような屋根形状と軒の高さを考慮し、ランドスケープについても一定の工夫が見られました。3次元で変化する屋根形状など、BIMを前提とした建築生産プロセス全体を通した連携を実現し、設計のフィードバックと事業全体のコストマネージメントにも積極的に取り組んだ点も評価に値します。以上の点から、高い評価を得て東北建築賞作品賞に推薦されました。

認定こども園 らみどり
発注者から、自然を生かした森の幼稚園のような保育環境を作りたい、という要望を受け実現した認定こども園です。敷地は小高い起伏のある丘陵地であり、建物は起伏のある地形に寄り添うように、S字のカーブを描き、高低差のある地形にゆるやかなスロープで合わせた建物となっています。地形と建物が寄り添い、一体感を感じられる作りになっていると評価できます。また、既存の桜の巨木を残し、建物には大径木を使用した三角屋根がリズミカルに並び、この地域の風土を感じられる森のような保育環境を作り上げています。各保育室の内観は、縦ログと三角形の屋根で構成され、前後の大きな開口から視野が広がり、気持ちの良い空間が広がっています。地形に寄り添った建物を作るためにS字の平面形状とし、高低差を処理するにあたっては、床のレベルや屋根の形状を変え、それでいて違和感のない建物を作り上げています。こうしたことが高く評価され、東北建築賞作品賞に推薦されました。
特別賞 受賞作品

白鷹まちづくり複合施設(白鷹町役場・図書館)
白鷹町は、町土の約65%が森林ですが、外国産材の輸入拡大などを受け、手付かずの森林が増えていました。そこで町は、森林経営、木材の製材や流通、木材の利用促進の一体的な活性化に着手しました。町役場を含むこの複合施設では、町内の生産能力に合わせ、柱や梁に用いる製材の寸法を限定したり、民間の出資により木材乾燥施設を完成させたりしながら、まさに町が目指していた森林・林業・木材産業の川上から川下までの活性化を体現しており、この点を高く評価し、特別賞の受賞となりました。複合施設は、耐火構造のコアを複数挟むことで、庁舎全体の木造化を実現していることが特徴です。また、大会議室や議場の大架構も迫力があります。さらに、この施設の最大の魅力は、エントランス近傍の町民ラウンジです。敷地の高低差を町民ラウンジ周辺で解消しており、周遊すると立体迷路のような楽しさがあります。町民ラウンジには杉の香りが漂い、休日も多くの町民が集っています。ワークショップを通して丁寧に町民の声を拾い上げた成果であると評価できます。